相続財産調査とは
1.相続財産調査とは
相続財産調査とは、亡くなった方(被相続人)がどのような財産を持っていたのかを調べる作業のことです。
相続の手続きを進めるうえで、まず何より大切なのは「被相続人がどのような財産を遺していたか」を正確に把握することです。
なぜなら、相続人が誰であるかがわかっても、何をどう分けるかがわからなければ、遺産分割ができないからです。
財産と聞くと、お金や預貯金、不動産などを思い浮かべる人が多いと思いますが、実際にはそれ以外にもさまざまなものがあります。
たとえば、有価証券(株や投資信託)、生命保険金、貸金庫の中身、貴金属や美術品、自動車などの動産、さらには借金やローンといった「マイナスの財産」も含まれます。
プラスの財産だけでなく、マイナスの財産もしっかり調べておかないと、あとで「こんな借金があったなんて知らなかった」とトラブルになることもあります。
調査方法としては、まずは通帳や印鑑、郵便物、契約書など、被相続人の自宅にある書類をもとに情報を集めます。
それでもわからない場合は、銀行や証券会社、市役所、不動産登記所などに問い合わせて、被相続人名義の財産があるかを確認します。
また、マイナスの財産の有無についても、信用情報機関に調査を依頼することがあります。
相続財産調査は、正確性がとても重要です。
相続税の申告にも関わってくるため、漏れがあるとあとから税務署に指摘されることもありますし、相続人同士の不信感にもつながります。
調査は慣れないと大変な作業になるため、弁護士などの専門家に依頼するケースも多くあります。
このように、相続財産調査は、遺産を正しく把握し、円滑に相続を進めるための第一歩となる非常に大切な手続きです。
丁寧に、そして慎重に行うことが、後々の相続トラブルを防ぐ鍵となります。
2.相続財産調査を行う主な目的
相続財産調査はできる限り漏れがないように丁寧に、そして確実に行うことがとても大切です。
調査をきちんと行わないまま相続手続きを進めてしまうと、後になって新たな財産が見つかったり、見落としていた借金が発覚したりするなど、さまざまなトラブルや手続き上の問題が起こる可能性があるからです。
では相続財産調査がなぜ必要なのか、その目的など以下で詳しく解説していきます。
2-1.遺産分割(協議)を行うため
相続が発生した後、複数の相続人がいる場合には、亡くなった方(被相続人)の財産をどのように分けるかを話し合う必要があります。
これを「遺産分割協議」といいます。
協議を円滑に進めるためには、まず前提として、被相続人がどのような財産をどれだけ所有していたのかを正確に把握しておく必要があります。
たとえば、不動産、預貯金、有価証券(株式や投資信託など)、生命保険金、車、貴金属などのプラスの財産に加えて、借金やローン、保証債務といったマイナスの財産についても調査の対象です。
遺産分割協議では、相続人全員が公平に感じられる形での分割が重要です。
しかし、財産の内容を十分に把握していないと、誰かに有利・不利が出てしまったり、「後からこんな財産が出てきた」といったトラブルにつながる可能性があります。
さらに、相続人の中には亡くなった方と疎遠だった人や、財産の内容をほとんど知らない人もいるため、客観的な調査が特に大切です。
このように、正確な財産の把握があってこそ、全員が納得できる協議が可能となるため、相続財産調査は最初に行うべき極めて重要な手続きです。
2-2.相続税の申告漏れを防ぐため
相続によって取得した財産の総額が、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告と納税が必要になります。
しかも申告内容に間違いや漏れがあると、後から税務署から指摘されて追徴課税を受けることもあります。
こうしたリスクを避けるためには、相続財産を正確に、しかも期限内に調査して把握しておくことが欠かせません。
相続財産の中には、預貯金や不動産のようにすぐにわかるものもあれば、生命保険金、株式、投資信託、タンス預金、未解約の契約(有価証券・会員権など)など、把握が難しいものも少なくありません。
また、クレジットカードや借入金などの負債があれば、それも申告対象になります。
財産が広範囲にわたるほど調査には時間がかかるため、早めに動き出さなければ期限に間に合わないこともあります。
申告漏れが発覚した場合は、加算税や延滞税が課されることもあるため、相続財産調査は税務対策の第一歩として非常に重要です。
2-3.相続放棄の可能性を確認するため
相続が発生したとき、相続人は「財産を引き継ぐ」だけでなく、「相続を放棄する」という選択も可能です。
これは、相続する財産の中に借金などのマイナスの財産が多い場合に、自分の生活を守るために選ばれる制度です。
相続放棄を希望する場合、家庭裁判所に申し立てを行わなければならず、しかもその期限は「自己のために相続の開始があったことを知った日から3か月以内」と法律で決められています。
この3ヵ月の間に、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産を調べ、全体の状況をしっかり把握することが求められます。
たとえば、「預貯金が少しあるから相続しよう」と思っていたら、後から多額の借金が発覚したというケースもあります。
逆に、借金があると思って放棄したら、実は不動産などの高額な資産があったということもあり得ます。
一度相続放棄をしてしまうと、その決定を取り消すのは非常に困難なので、判断には慎重を期す必要があります。
そのためにも、できる限り正確に、しかも早急に相続財産調査を行うことが重要です。
3.相続財産調査の代表的な方法
相続財産があるかどうかを調べる方法は、その財産の種類や置かれている状況によって異なってきます。
どのような財産があるか、どのように管理されていたかなどによって調査の進め方が変わるため、それぞれの財産ごとに適切な方法で確認していく必要があります。
以下に挙げるのは、財産の種類ごとに一般的によく行われている調査の方法です。
3-1.銀行口座の確認
相続財産を調べる際、まず確認しておきたいのが被相続人(亡くなった方)が利用していた銀行口座です。
多くの方は複数の金融機関に口座を持っていることもあり、すべてをきちんと把握するためには丁寧な調査が欠かせません。
調べ方としては、通帳やキャッシュカード、または銀行から届いた郵便物などをもとに、取引のあった金融機関を特定します。
金融機関がわかったら、各銀行に連絡し、口座の残高証明書や取引明細書の発行を依頼します。
この手続きには、相続人であることを示す戸籍謄本や、本人確認書類が必要になります。
また、銀行によっては専用の書式に記入が必要な場合もあるため、事前に確認しておくとスムーズです。
最近ではネットバンキングを利用している人も多いため、スマートフォンやパソコン、タブレット、メールの受信履歴などを調べることで、インターネット銀行の存在が判明することもあります。
銀行名が不明な場合には、税務署からの通知や年末調整書類などに記載された口座情報がヒントになることもあります。
このように、銀行口座の確認は相続財産調査の第一歩であり、預貯金の正確な額を知ることで遺産分割や相続税の計算にも役立ちます。
漏れなく調べることが、のちのトラブル防止にもつながる大切な作業です。
3-2.不動産の調査
被相続人が所有していた土地や建物などの不動産がある場合、その所在地や登記情報をきちんと確認することが必要です。
具体的には、法務局で「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得すれば、不動産の名義人や持分割合、抵当権などの権利関係が分かります。
また、固定資産税の納税通知書や名寄帳(固定資産課税台帳)を利用することで、保有している不動産の一覧や課税評価額を把握することも可能です。
さらに、空き家や遠方の土地など、普段からあまり意識していなかった不動産が存在することもあるので、調査の際には市区町村役場にも相談するとよいでしょう。
不動産はその評価額が相続税に大きく影響することがあるため、見落としや誤認のないよう丁寧に確認することが大切です。
3-3.証券や投資信託の調査
被相続人が株式や投資信託などの金融商品を保有していた場合は、それらの資産の内容や評価額を調べる必要があります。
まず、証券会社から届いている取引報告書や残高報告書、年間取引報告書などの書類を確認することで、口座の存在や保有銘柄、運用状況を把握できます。
証券口座が分からない場合でも、郵送物やメール、金融機関の通帳の入出金履歴などを丁寧に調べて、どの証券会社と取引していたかを探すことが大切です。
また、証券会社に対して「残高証明書」や「取引履歴」を請求することで、相続財産の一部として正式な評価をするための資料を集められます。
株式や投資信託は市場の価格によって評価額が日々変動するため、相続税の申告では、相続発生日における時価評価が求められます。
さらに、複数の証券会社に口座を開設しているケースもあるので、見落としがないように調査を進めることが重要です。
証券や投資信託は額面以上の価値を持つこともあり、相続財産の中で大きな割合を占めることもあるため、確実な確認が必要です。
3-4.保険の契約内容を確認
被相続人が生命保険や医療保険、がん保険などに加入していた場合、それらの契約内容や受取人の確認が大切です。
保険金の受け取りは原則として契約時に指定された受取人が対象となり、相続財産には含まれないことが多いですが、相続全体の財産把握や相続税の計算には影響してくるため、正確な確認が必要です。
まずは、保険証券や加入時の契約書、保険会社から届いた通知書類などを確認しましょう。
保険の証券が見つからない場合でも、被相続人の銀行口座の引き落とし記録や、郵便物・メールなどから保険会社との取引の痕跡を探ることができます。
該当する保険会社が分かれば、問い合わせをして契約の有無や契約内容の詳細(保険金額、契約者・被保険者・受取人の情報など)を確認できます。
また、保険には「満期保険金」や「解約返戻金」がある場合もあるため、これらが相続財産として扱われる可能性もあります。
受取人が被相続人自身だった場合には、保険金が相続財産に組み込まれるため注意が必要です。漏れなく保険契約の有無を確認することは、円滑な相続手続きや公平な遺産分割のために非常に重要です。
3-5.借金やローンなどの負債の調査
相続財産の調査では、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産である借金やローン、未払いの費用などの負債も必ず確認しなければなりません。
なぜなら、相続はプラスの財産だけでなく、負債も一緒に引き継ぐことになるため、借金の存在を見落としてしまうと、後で大きなトラブルや予期せぬ支払い義務が発生する恐れがあるからです。
具体的には、住宅ローンや自動車ローン、カードローン、消費者金融からの借入れ、さらには税金の未納分や公共料金の未払い分など、あらゆる負債を調査します。
調査の手段としては、金融機関の取引履歴や契約書、毎月の返済明細を確認することが基本ですが、被相続人が利用していたクレジットカード会社やローン会社にも問い合わせを行い、現在の借入残高や返済状況を把握することが重要です。
また、借金の中には連帯保証人になっている場合もあり、その場合は相続人に大きな負担がかかる可能性があります。
こうした情報もきちんと調べることで、相続人が今後の対処を適切に検討できます。
借金の内容や額を正確に把握することで、相続放棄や限定承認といった法的な選択肢を判断する材料にもなります。
3-6.タンス預金や貴金属などの確認
相続財産の中には、銀行口座に預けられていない「タンス預金」や、現金、貴金属などの自宅保管資産が含まれている場合があります。
これらは金融機関などに記録が残らないため、見落とされやすい財産です。
被相続人が節税や防犯のために現金を自宅で保管していたり、価値のある宝石や貴金属を持っていたりするケースは珍しくありません。
調査の際には、まず被相続人の自宅や金庫、引き出し、クローゼット、家具の中などを丁寧に確認することが重要です。
特に、通帳や証書類と一緒に保管されていることが多いので、書類整理の際に注意深くチェックしましょう。
また、タンス預金の現金だけでなく、金の延べ棒や高級腕時計、指輪、ネックレスといった貴金属・装飾品も資産として価値があるため、相続財産として把握しておく必要があります。
これらの財産は、遺産分割の際に公平性を保つ上でも重要な情報になります。
特に高額な現金や貴金属が見つかった場合には、税務署への申告や相続税の課税対象になることもあるため、適切な管理と記録が求められます。
4.相続財産調査をご自身で行う注意点
相続財産の調査を弁護士などに頼まずに自分で行う場合、一見すると費用を抑えられるというメリットがあるように思えますが、実際にはいくつか大きなデメリットがあります。
まず、相続財産には不動産や預貯金、株式などの「プラスの財産」だけでなく、借金やローンなどの「マイナスの財産」も含まれるため、それらを正確に漏れなく調べるのは非常に手間がかかりますし、法律や制度に関する知識も求められます。法律の専門知識がないまま調査を進めてしまうと、うっかり借金を見落としてしまい、後になって相続人がその返済義務を負うといった深刻な問題が起きるおそれがあります。
また、銀行や証券会社への問い合わせ、不動産の権利関係の確認、遺言書の有無の調査などは、相手方に対して適切な書類の提出や手続きが必要な場合が多く、慣れていない人にとってはとても複雑です。
手続きに不備があると、相続がスムーズに進まず、相続人同士のトラブルや手続きの遅れにつながることもあります。
相続税の申告に関しても、財産の内容や評価によっては税務署への申告が必要になりますが、自分で調べた財産の内容が不正確だった場合には、申告漏れや過少申告としてペナルティが課されるリスクもあります。
こうしたリスクを防ぐためには、やはり専門的な知識を持った弁護士などに依頼するのが安心です。
このように、自分だけで相続財産調査を行うと、見落としや誤りが生じやすく、その結果として相続トラブルや余計な手間・費用を招くことになりかねません。
弁護士に依頼すれば、正確かつ効率的に調査を進めることができ、相続人にとって最善の方法を提案してもらえるという点で、大きな安心につながるのです。
5.まとめ
相続財産調査は、相続手続きを円滑に進めるために最初に行うべきとても重要な手続きです。
限られた時間の中で、財産の種類ごとに多くの機関に問い合わせをし、必要書類を集めて確認していく作業は、想像以上に膨大な時間と労力がかかります。
そのうえ調査内容にミスがあれば、後々トラブルに発展することもあるため、慎重かつ正確に進めなければなりません。
このような煩雑な手続きを自分たちだけで行うのは、精神的にも身体的にも大きな負担になることが多いです。
しかし経験や知識のある弁護士などに依頼すれば、必要な調査を的確に進めることができ、相続に関する法律知識を活かして、抜けや漏れのないようにサポートしてもらえるので安心です。
何より、専門家に任せることで自分たちの時間や労力を大幅に節約でき、心身の負担を軽くすることができます。
相続をスムーズに、そして確実に進めるためにも、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。