生前贈与とは?メリットや活用方法

コラム

 

 

1.生前贈与とは

 

生前贈与とは、高齢者が自分の財産を生きているうちに家族や大切な人へ贈与することをいいます。
亡くなった後に財産を分ける「相続」とは異なり、自分の意思で元気なうちに財産の行き先を決められるのが大きな特徴です。
たとえば、「子どもの住宅購入を助けたい」「孫の教育資金を援助したい」「将来の相続で家族が揉めないようにしたい」といった思いを持つ方が、生前贈与を活用しています。
つまり、生前贈与は“家族への思いやり”を形にする方法ともいえるでしょう。

 

そして生前贈与は相続税対策として使うことができます。
相続税は亡くなった時点で所有していた財産の総額に応じて課税されますが、事前に少しずつ贈与しておくことで、相続時の財産を減らし、結果的に税負担を軽くできる可能性があります。
特に、毎年110万円までは「基礎控除」として贈与税がかからない仕組みがあるため、これを活用して数年にわたり計画的に贈与していく方法がよく利用されています。

 

ただし、生前贈与には注意点もあります。
まず、贈与税の課税対象になる可能性があるため、金額や時期を誤ると想定外の税金が発生することがあります。
また、「名義預金」と呼ばれるトラブルにも気をつけなければなりません。
たとえば、贈与を受けた人がその財産を自由に使えない状況だった場合、税務上は「実際には贈与されていない」とみなされることがあり、後から税金の追徴を受けるリスクもあります。
そのため、贈与を行う際は贈与契約書を作成し、贈与者と受贈者が双方で合意したことを明確にしておくことが重要です。

 

また、生前贈与には目的別にさまざまな制度が用意されています。
たとえば、「住宅取得等資金の贈与」や「教育資金贈与の特例」、「結婚・子育て資金の一括贈与」など、一定の条件を満たすことで非課税枠が大きく拡大されるケースもあります。
これらの制度を活用すれば、家族の将来を支えながら税負担を抑えることができるため、非常に実用的です。

 

ここでは、生前贈与を行うメリットや様々な活用方法を説明していきます。

 

 

 

2.生前贈与の方法

 

生前贈与にはいくつかの方法がありますが、代表的なのが「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」という2つの方法です。
どちらも財産を生きているうちに家族などに渡す仕組みですが、税金の扱いや手続きに大きな違いがあります。それぞれの特徴を説明します。

 

 

2-1.暦年贈与

 

暦年贈与とは、1年ごと(暦年単位)に行う贈与のことを指します。
この制度では、1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与を受けた財産のうち、110万円までは贈与税がかからない「基礎控除」という仕組みがあります。
たとえば、毎年110万円以内で贈与すれば、税金を払わずに長期間かけて財産を移転できるのです。
親から子、祖父母から孫などへ少しずつ資産を移す場合に向いており、相続税の負担を軽減できる可能性もあります。
ただし、「贈与契約」を明確にしておかないと、後に税務署から「本当は相続対策のための形式的な贈与」とみなされることもあるため、通帳の管理や贈与証書などの記録を残しておくことが大切です。

 

 

2-2.相続時精算課税制度

 

相続時精算課税制度は、贈与時には一定の金額まで贈与税がかからず、最終的に相続が発生したときにまとめて精算するという仕組みです。
この制度を選ぶと、60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子や孫に対して、2,500万円までの贈与が非課税で行えます。
ただし、贈与を受けた後に相続が発生した際、その贈与分も含めて相続税の計算がされる点が特徴です。
つまり、一時的に贈与税はかからなくても、最終的には相続税で精算されるという仕組みになっています。
この方法は、まとまった金額を一度に贈与したい場合や、将来の資産移転を早めたい場合に有効です。

 

 

2-3.どちらを選ぶべきか

 

注意点として「相続時精算課税制度」を一度選択すると、その後は原則として暦年贈与のような110万円の非課税枠を使うことができなくなるなど、柔軟性が制限される点に注意が必要です。
したがって、どちらの方法がよいかは、贈与をする人の年齢、資産の内容、贈与を受ける人の状況などによって異なります。
税金面だけでなく、将来的な相続計画全体を見据えて判断することが大切です。
可能であれば、弁護士など専門家に相談して、最適な方法を選ぶようにすると安心です。

 

 

 

3.生前贈与のメリット

 

生前贈与には相続が発生する前に財産をあらかじめ分けておくという特徴があり、さまざまなメリットがあります。
特に高齢者にとっては、「自分の意思で財産をどう使うかを決められる」という点も大きな魅力です。

 

まず、一番のメリットは相続税の節税効果が期待できることです。
相続税は、亡くなった時点での財産に対して課税されますが、生前に少しずつ贈与しておけば、その分相続財産の総額が減り、相続税の負担を軽くすることができます。
特に暦年贈与を活用すれば、毎年110万円まで非課税で贈与できるため、長期間にわたって計画的に資産を移転すれば、大きな節税効果を得られる場合があります。

 

次に、遺産分割トラブルの予防にもつながります。
相続が始まってから財産の分け方を巡って家族間で争いが起こることは少なくありません。
生前贈与を行えば、自分が元気なうちに「誰に・何を・どのくらい」渡すのかを明確に決めておくことができるため、将来的なもめ事を防ぐ効果があります。
また、贈与を受ける側も事前に内容を理解できるので、納得感をもって財産を受け取ることができます。

 

さらに、贈与する本人の意思を反映できるという点も重要です。
相続では法定相続分という一定のルールが存在しますが、生前贈与なら自分が支援したい人や、感謝を伝えたい人に自由に財産を渡すことができます。
たとえば、介護をしてくれた子どもに多めに贈与したり、孫の教育資金として使ってもらう目的で贈与することも可能です。

 

また、贈与された財産をすぐに活用できるという利点もあります。
相続の場合、遺産分割協議や各種手続きに時間がかかることが多いですが、生前贈与なら、受け取った側がその資金をすぐに使うことができます。
子どもや孫が住宅を購入する費用や教育資金に充てることで、実際の生活支援につなげられます。

 

このように、生前贈与には税金面のメリットだけでなく、家族関係の円満化や、本人の意思を尊重できるという精神的なメリットもあります。

 

 

 

4.生前贈与のデメリット

 

生前贈与には多くのメリットがある一方で、注意しておかないとトラブルや不利益につながるデメリットも存在します。
特に税金や手続きの面では誤解しやすいポイントが多く、慎重な判断が求められます。

 

まず大きなデメリットとして挙げられるのが、贈与税の負担が発生する可能性があることです。
贈与税は、1年間に受け取った財産のうち110万円を超える部分に課税されます。
たとえば、1年間で200万円を贈与した場合、90万円に対して贈与税がかかります。
この税率は相続税よりも高く設定されているため、計画を立てずに多額の贈与をすると、かえって税金負担が増えることもあります。
そのため、節税を目的にするなら「暦年贈与」や「相続時精算課税制度」をうまく使い分ける必要があります。

 

次に、一度贈与してしまうと原則として財産を取り戻せないという点も重要です。
贈与契約は、贈与する側の「意思表示」に基づいて成立するため、いったん贈与が完了してしまえば、後から「やっぱり返してほしい」と言っても基本的には取り消せません。
たとえば、贈与後に受け取った家族との関係が悪化した場合や、自分自身の老後の生活費が足りなくなった場合などでも、その財産は戻ってこない可能性があります。

 

さらに、相続時の公平性が問題になることもあります。
生前贈与を特定の相続人だけに行った場合、相続の時に「不公平だ」と感じる他の家族が現れることがあります。
相続では、特定の相続人が生前に受け取った財産を「特別受益」として扱い、最終的な相続分を調整することになりますが、計算や評価が複雑になるため、相続手続きが長引く原因になることもあります。

 

最後に、財産を贈与したつもりであっても、税務署の調査により実態が異なると判断されるケースがあります。
たとえば、形式上は贈与されているように見えても、実際には本人の管理下にある「名義預金」とみなされたり、毎年分けて贈与したつもりの資産が「定期的に贈与された一括の財産」として扱われたりする場合です。
その結果、贈与した財産が相続財産として扱われることになったり、複数年にわたる贈与がまとめて課税対象となったりすることがあり、当初の節税効果が失われるリスクが生じます。

 

このように、生前贈与はメリットが多い一方で、税金・家族関係・将来の生活に関わるリスクも伴います。

 

 

 

5.生前贈与が非課税になる特例制度

 

生前贈与には、贈与税の非課税になる、特定の目的で贈与しやすくするための特例制度がいくつか設けられています。
ここではより大きな節税効果が期待できる、代表的な6つの制度について説明します。

 

 

5-1.基礎控除

 

基礎控除は、生前贈与における最も基本的な制度で、年間110万円までの贈与については贈与税がかからないという制度です。
つまり、親や祖父母が子どもや孫に毎年少額ずつ財産を渡す場合、年間110万円までは非課税で贈与することができます。
この制度を活用すると、少額を継続的に贈与することで累積的に財産を移転でき、結果的に将来の相続税対策にもつながります。
たとえば、現金や預金を毎年少しずつ贈与していけば、長期的に数百万円、数千万円の資産移転を無税で行うことが可能です。
ただし、贈与を受ける側も贈与を受けた金額を記録し、税務署からの問い合わせに備えることが望ましいです。

 

 

5-2.相続時精算課税の特例制度

 

相続時精算課税制度は、60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子や孫へ贈与する際に利用できる制度で、最大2,500万円までの贈与に関しては贈与時に贈与税を支払う必要がありません。
贈与された財産は、贈与者が亡くなった時点で相続財産と合算されて相続税の計算対象となります。
これにより、一度に大きな財産を子どもに移転しても当面の贈与税の負担を抑えられるメリットがあります。
また、相続時に全体の財産額と相続税を考慮して調整できるため、計画的な資産移転が可能です。
ただし、贈与を受けた財産は、原則として後から取り消すことはできないため、計画的に行うことが重要です。

 

 

5-3.住宅取得資金贈与の特例制度

 

住宅取得資金贈与の特例は、子どもや孫が住宅を購入・新築、またはリフォームする際に、親や祖父母からの資金援助について一定額まで非課税にできる制度です。
たとえば、住宅ローンの頭金や購入費用に充てることを目的とした贈与であれば、通常課税される贈与税が非課税となります。
非課税枠は、対象となる住宅の種類や時期によって変動する場合があります。
この制度を活用すれば、住宅取得に必要な資金負担を軽減しつつ、贈与税の負担を回避できます。
また、住宅取得を支援する目的に限定されるため、贈与の使途が明確であることが前提となります。

 

 

5-4.結婚や子育て資金の一括贈与の特例制度

 

結婚・子育て資金贈与の特例は、結婚や出産、子育てに必要な資金を、祖父母や親から子どもや孫に贈与する場合に一定額まで非課税とできる制度です。
具体的には、結婚式費用、引越し費用、出産費用、育児用品購入費用、保育園・幼稚園の費用などが対象となります。
この特例により、若い世代の生活立ち上げや子育てを経済的に支援しつつ、贈与税の負担を減らすことができます。
ただし、非課税で受け取るためには、資金を適切に使途限定して管理する必要があります。

 

 

5-5.教育資金の一括贈与の特例制度

 

教育資金贈与の特例は、祖父母や親が子どもや孫の教育資金として贈与する場合に、一定額まで非課税で贈与できる制度です。
対象となる費用には、学校の授業料、入学金、教材費、塾や習い事の費用などが含まれます。
この制度を活用すると、子どもの学習環境や教育機会を充実させるための資金援助を効率よく行うことができます。
非課税の上限額や利用手続きには条件があるため、活用する際は事前に確認が必要ですが、将来の学費負担を軽減しつつ、贈与税を節約できる点が大きなメリットです。

 

 

5-6.夫婦間の贈与の特例制度

 

夫婦間贈与の特例は、婚姻期間が20年以上経過している夫婦間で、居住用不動産やその取得資金を贈与する場合に適用されます。
この制度では、一定額までの贈与について非課税とすることが可能で、配偶者間での財産移転や相続時の負担軽減に有効です。
長期間連れ添った夫婦の生活設計や相続対策として活用できるだけでなく、贈与契約書や手続きを適切に行うことで、後々のトラブルを避けることもできます。
夫婦間の円滑な財産管理や相続準備に役立つ特例制度です。

 

 

 

6.生前贈与の注意点

 

生前贈与を行う際には様々な注意点がありますが、その中でも「名義預金」と「定期贈与」という点は、生前贈与を行う際に非常に重要な注意事項です。
特に、贈与税の申告や相続時のトラブルを防ぐためには、この2つの問題を正しく理解しておく必要があります。

 

まず「名義預金」とは、実際には贈与者が管理・支配しているにもかかわらず、形式的に受贈者(贈与を受ける人)の名義で預金されているお金のことを指します。
例えば、親が子どもの名義で口座を作り、その口座に親自身が入金している場合でも、子どもがその存在を知らず、自由に引き出すこともできない状態であれば、その預金は「実質的には親のお金」とみなされる可能性が高いです。
このような場合、税務署は「名義だけ子どもにしただけで贈与は成立していない」と判断し、贈与税の対象にならなかったり、相続の際に相続財産として再び計上されてしまうことがあります。
つまり、贈与のつもりで行ったことが、結果的に相続税の増加や税務調査の対象となるリスクにつながるのです。

 

次に「定期贈与」とは、毎年一定の金額を同じ相手に贈与する契約が、あらかじめ継続的に約束されていると判断されるケースをいいます。
たとえば、親が「今後10年間、毎年100万円を子どもに贈与する」と決めて実行している場合、一見すると毎年の暦年贈与のように見えますが、税務上は「最初から10年間で1,000万円を贈与する約束」とみなされ、結果的に一括で課税されてしまう可能性があります。
暦年贈与の非課税枠(年間110万円)を活用しているつもりでも、形式的・実質的に「定期的な給付」と判断されれば、節税の効果は失われ、かえって多額の贈与税が課されることもあります。
このような問題を防ぐためには、贈与契約を毎年その都度明確に行い、贈与の意思を双方で確認しておくことが重要です。
たとえば、毎年日付を変えた贈与契約書を作成し、受贈者本人が自らの意思で受け取った証拠(通帳の記録や領収書など)を残しておくことが有効です。
また、受贈者がそのお金を実際に管理・使用していることも重要なポイントになります。

 

「名義預金」や「定期贈与」の問題は、単なる手続き上の不備ではなく、贈与そのものの有効性を左右する重大な要素です。
せっかくの生前贈与が無効と判断されたり、思わぬ課税を受けたりしないよう、形式と実態の両面から注意深く進めることが大切です。
そのため、贈与を行う際は、書面の作成や資金移動の管理をきちんと行い、後で税務署に説明できる証拠を残しておくことが、トラブル防止の鍵になります。

 

 

 

7.まとめ

 

生前贈与は単なる財産の移転ではなく、人生の集大成としての意思表示でもあります。
自分の築いた財産をどう活かし、誰にどのように託したいかを考えることは、今後の家族関係や安心した老後の生活にもつながります。
ただし、税制や法律の知識が必要な分野でもあるため、贈与の目的や家族の状況に応じて、弁護士などの専門家に相談しながら進めるのが安心です。
計画的に生前贈与を行うことで、家族に思いを伝えると同時に、円満な相続への準備を整えることができるのです。


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