遺言書とは
1.遺言書とは
「遺言書」というのは、自分が亡くなった後に、自分の財産をどのように分けるか、誰に何を残すかを記した正式な書類のことを指します。
簡単に言えば、自分の最期の意思を形にした大切なメッセージです。
遺言書を作成することで、自分が希望する相続の内容を明確に伝えることができるため、遺族同士のトラブルを防ぐ効果もあります。
特に、家族構成が複雑だったり、特定の人に感謝の気持ちを込めて財産を残したい場合など、遺言書がないと自分の思い通りに財産を分けられないこともあるため、とても重要な役割を果たします。
遺言書には、いくつか種類があり、代表的なものとしては「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。
自筆証書遺言は、自分自身で全文を手書きして作成するものですが、形式に不備があると無効になってしまうこともあります。
一方、公正証書遺言は、公証役場で公証人の立ち会いのもと作成されるため、法的な安全性が高く、万が一遺言者が亡くなった後もスムーズに内容が実現されやすいという特徴があります。
また、遺言書には財産の分配だけでなく、例えば「子どもの後見人を指定する」「特定の団体に寄付をする」「特別な配慮が必要な家族への支援方法を記載する」など、幅広い意思表示を含めることができます。
つまり、遺言書は単なる財産の分配にとどまらず、人生の総まとめとして、自分の想いをきちんと形にするためのものでもあるのです。
さらに、遺言書がない場合、相続は法律の定めに従って決まっていきます。
これを「法定相続」といいますが、必ずしも本人の希望通りになるとは限りません。
遺言書をきちんと準備しておけば、法定相続による想定外の結果を避けることができ、大切な人たちに自分の意思をしっかりと伝えることができます。
最近では、終活の一環として、元気なうちから遺言書を作成する方が増えています。
遺言書を作ることは、自分の生き方を振り返り、これからをどう生きるかを考えるきっかけにもなります。
そして、何よりも家族や大切な人たちへの思いやりを形にして残す、温かい行動でもあるのです。
2.遺言書の種類
遺言書にはいくつかの種類があり、それぞれに特徴や作成方法、注意点があります。
どの形式を選ぶかによって、将来の相続手続きのスムーズさや法的な有効性にも違いが出てきます。
最もよく知られているのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」で、さらに「秘密証書遺言」という方式も存在します。
これらはすべて法律で定められた正式な遺言の方法であり、それぞれの特徴を理解したうえで、自分の状況や希望に合ったものを選ぶことが大切です。
2-1.自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)
「自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)」とは、遺言者本人がすべての内容を自分で手書きして作成する遺言書のことです。
この形式の遺言は、最も身近で簡単に始められる方法のひとつとして多くの方に利用されています。
特別な費用がかからず、公証役場などに出向く必要もないため、自分のペースで落ち着いて作成できるというメリットがあります。
たとえば、「どの財産を誰に相続させたいか」や、「誰かに感謝の気持ちを伝えたい」といった想いを、自分の言葉で自由に書き記すことができるのです。
ただし、自由度が高い分、法律で定められたルールを守らないと、せっかく書いた遺言書が無効になってしまうリスクもあります。
最も重要なのは、遺言の全文を本人が自筆(つまり手書き)で書かなければならないという点です。
パソコンで作成したり、他人に代筆してもらったりしたものは、自筆証書遺言としては認められません。
また、「作成した日付」「遺言者本人の署名」「押印(通常は認印や実印)」の3点は必ず書かなければならない重要な要素です。
これが一つでも欠けていると、その遺言書は法的な効力を持たないことになります。
2019年の民法改正により、財産目録(たとえば通帳のコピーや不動産の登記簿など)については、自筆ではなくパソコンやコピーでもよいという柔軟な対応が可能になりました。
この変更により、財産が多岐にわたる場合でも、自筆証書遺言をより実用的に使いやすくなっています。
さらに、2020年からは「法務局による自筆証書遺言の保管制度」も始まりました。
これは、自筆証書遺言を法務局に預けて安全に保管してもらう制度で、紛失や改ざん、誰にも見つけられずにそのままになってしまうといった心配を減らすことができます。
また、保管された遺言書については、相続が発生したときに「家庭裁判所の検認手続き」が不要になるという利点もあります。
このように、自筆証書遺言は手軽に始められる一方で、形式面に注意しながら正確に作成することが重要です。
少しでも内容に不安がある場合には、弁護士のような専門家にアドバイスを求めるほうが良いでしょう。
自分の意思をしっかりと伝え、残された人たちが安心して手続きを進められるよう、丁寧に準備しておくことが大切です。
2-2.公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)
「公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)」とは、公証役場で公証人が作成する正式な遺言書のことです。
遺言を残す本人が、公証人と証人2人の立ち会いのもとで、自分の意思を口頭で伝え、それをもとに公証人が内容を文章にまとめて作成します。
この方法は法律的に最も信頼性が高く、確実に本人の意思を反映させた遺言書を残すことができるとされています。
公正証書遺言の最大の特徴は、作成された遺言書が原本として公証役場に保管されるという点です。
これにより、紛失や改ざんの心配がなく、相続開始後に内容が不明になったり、無効になったりするリスクがほとんどありません。
また、自筆証書遺言と異なり、家庭裁判所での「検認」手続きが不要なため、相続人にとってもスムーズに手続きが進められるというメリットがあります。
公正証書遺言は、本人が文字を書けない場合や、病気・高齢などで自筆が難しい場合でも作成できます。
本人がしっかりとした意思表示をできる限り、公証人がその内容を正確に書面化してくれるため、体力的な不安がある方でも安心して利用できます。
また、公証人という法律の専門家が内容をチェックするため、遺言の形式や表現によって無効になるリスクも大幅に低減されます。
もちろんこの制度には費用がかかりますが、その費用も内容や財産額に応じて明確に定められており、不明瞭なものではありません。
たとえば、遺言の対象となる財産の金額が大きければそれに応じた手数料がかかりますし、証人を公証役場で手配してもらう場合はその費用も別途必要になります。
ただ、その分だけ、内容が確実であり、後のトラブルを未然に防ぐという大きな安心が得られるのです。
特に、相続人の間で争いが起こりそうな場合や、特定の人に遺産を多く渡したいといった明確な意思がある場合には、公正証書遺言の利用が強く勧められます。
また、複雑な財産構成や介護の事情が絡むケースでも、公証人が丁寧にヒアリングしてくれるため、内容を法的に適切な形で整理しやすくなります。
このように、公正証書遺言は手間や費用はあるものの、その分の安心感と信頼性が非常に高く、将来の相続トラブルを避けるための有効な手段として、広く利用されているのです。
家族や大切な人のためにも、自分の思いをしっかりと残す方法として、とても頼りになる遺言の形といえるでしょう。
2-3.秘密証書遺言(ひみつしょうしょいごん)
「秘密証書遺言(ひみつしょうしょいごん)」とは、自分が書いた遺言の内容を秘密にしたまま、公証人のもとで作成・手続きを行うことができる遺言の形式です。
この遺言書の特徴は、遺言の内容を誰にも知られずに済むという点にあります。
たとえば、家族に見られたくない財産の分け方や、特別な思いを記した内容など、他人には知られたくないことがある場合に、この秘密証書遺言が活用されます。
作成の手順としては、まず遺言者本人が遺言書を自分で作成します。
このとき、手書きであってもパソコンで作成したものであっても構いませんし、代筆や他人に書いてもらうことも可能です。
さらに、遺言書の内容は必ず封筒などに入れて封をした状態で、公証人役場に持参します。
そして、公証人と証人2名の前で、「この封筒の中に自分の遺言書が入っている」ことを宣言し、公証人がその旨を封筒に記載して、手続きが完了します。
秘密証書遺言のメリットは、なんといっても内容を誰にも知られずに済むことにあります。
家族に対しても知られたくない内容がある場合や、周囲の反応に左右されずに自由に遺言を残したい人にとっては、大きな安心材料となるでしょう。
また、公証人が作成手続きに関わるため、形式面では一定の信頼性があります。
ただし、この方法には注意点もあります。
第一に、封印された遺言書の中身については公証人も確認しないため、内容や形式に不備があると、せっかく遺言を残しても無効になるおそれがあります。
また、自筆証書遺言と同様に、相続開始後には家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になります。
さらに、遺言書を保管していた人が紛失したり、隠したりすることで内容が確認できなくなるリスクもあるため、保管方法については十分に注意が必要です。
また、パソコンで作成した文書でも遺言として認められる唯一の方式である点も、秘密証書遺言の大きな特徴です。
自筆が困難な人や、パソコンでしっかりとした文面を整えたい人にも向いています。
ただし、署名だけは遺言者本人が手書きで行う必要があり、この部分を怠ると無効になる可能性もあるため、注意深く作成する必要があります。
このように、秘密証書遺言は「内容を完全に秘密にできる」自由度の高い形式である一方、形式ミスによる無効のリスクや、遺言書の保管と発見に関する不安も抱えているため、事前に専門家の助言を受けたり、公証人と相談したりすることが安心につながります。
内容を知られたくないが、しっかりと法的効果のある遺言を残したいという方にとって、慎重に利用すれば非常に有効な手段となるでしょう。
3.遺言書で何を決める事ができるのか
遺言書で決められることは、主に「自分が亡くなったあとにどうしてほしいか」という希望や指示を、法的に有効なかたちで書き残すことです。
わかりやすく言えば、遺言書は自分の人生の最終的な意思表示であり、亡くなったあとの「もしも」のときに備えて、大切な人たちに自分の気持ちを伝えるための大事な手段です。
ここでは遺言書で何を決めることができるかをお説明します。
●財産の分け方(相続分の指定)
遺言書では、自分が持っているお金や不動産、株式、貴金属などの財産を「誰に・どれだけ渡すか」を自由に決めることができます。
たとえば「自宅の土地と建物は長男に、預貯金は長女に」といったように具体的に記載できます。
法定相続分にとらわれず、自分の希望を明確に反映できるのが大きなメリットです。
ただし、遺留分といって、特定の相続人が最低限もらえる取り分もあるため、その点にも配慮が必要です。
●特定の人に財産を贈る(遺贈)
遺言では、法定相続人ではない人、たとえばお世話になった友人や看病してくれた知人、NPO法人や宗教団体などに対して財産を贈ることもできます。これを「遺贈」と呼びます。
遺贈には「特定遺贈(この家を○○さんに)」や「包括遺贈(全財産の3分の1を○○さんに)」などの種類があり、自分の意思に応じて選ぶことができます。
●相続の方法の指定(現物分割・換価分割など)
相続財産の分け方について、「そのまま現物で渡す(現物分割)」「売却してお金にして分ける(換価分割)」「代表者が受け取って他の相続人に代償金を払う(代償分割)」など、具体的な方法を指定することも可能です。
これによって、相続人同士の争いを防いだり、分配をスムーズに進めることができます。
●遺言執行者の指定
遺言書の内容を確実に実現させるためには、「遺言執行者」を指定することがとても重要です。
遺言執行者とは、遺言書の内容に従って相続手続きを実際に進める人のことです。
たとえば、財産の分配、金融機関の手続き、不動産の名義変更などを行います。
一般的には信頼できる親族や、専門的な知識を持った弁護士・司法書士などが選ばれることが多いです。
特に遺産分割や遺贈が複雑な場合には、専門家を指定するとスムーズです。
●負担付き遺贈の指定
「このマンションをAさんにあげるけれど、その代わりにBさんの介護を続けてほしい」といったように、条件をつけて財産を贈ることができます。
これは「負担付き遺贈」と呼ばれます。このような条件付きでの遺贈は、財産をただ与えるのではなく、故人の意思や希望を具体的に実現する手段として有効です。
●祭祀財産(お墓・仏壇など)の承継者の指定
お墓や仏壇、位牌などの「祭祀財産」は、法律上の相続とは別のルールがあり、通常は長男などが引き継ぐとされています。
ただし、遺言で別の人を指名することもできます。
「お墓は娘に引き継いでもらいたい」「仏壇の管理は弟にお願いしたい」といった希望がある場合は、遺言で明確に書いておくことが大切です。
●生命保険金受取人の変更(保険会社による)
一部の生命保険では、遺言書で保険金の受取人を変更することが可能です。
ただし、保険会社によっては遺言による変更を認めていない場合もあるため、事前に確認が必要です。
遺言と保険契約の内容が矛盾しないよう、両方の整合性をとることが大切です。
●遺留分に配慮した指示
法定相続人には「遺留分」という最低限の取り分が法律で保証されています。
たとえば、すべての財産を第三者に遺贈するような遺言を書いた場合でも、配偶者や子どもなどの法定相続人は「遺留分侵害額請求」という形で、一定の取り分を主張できます。
そのため、トラブルを防ぐには、遺留分にも配慮した内容や説明を遺言に含めるのが望ましいです。
●相続人の廃除・取消し
法律では、配偶者や子ども、親などが原則として相続人になりますが、中には「虐待を受けた」「生活を著しく害された」などの事情から、相続させたくない人もいるかもしれません。
そういった場合は、遺言で「相続人廃除」の意思を示すことができます。
ただし、これは裁判所の判断を要するため、廃除の理由が正当である必要があります。
また、かつて廃除した人を許し、再び相続人に戻したい場合は、「廃除の取消し」も遺言で行えます。
●子どもの認知
結婚していない相手との間に生まれた子どもを「認知」するには、遺言書でその旨を明記することができます。
遺言によって認知された子どもは、法律上の子どもとして認められ、相続権も発生します。生前に認知しなかった場合でも、遺言で認知をしておけば、死後に効力を持ちます。
●未成年後見人の指定
夫婦の両方が亡くなった場合、未成年の子どもの世話を誰がするかを明記しておくことができます。
これを「未成年後見人の指定」といいます。
指定がなければ、家庭裁判所が後見人を選ぶことになりますが、あらかじめ信頼できる親族や友人を指定しておくことで、子どもの福祉を守ることができます。
4.遺言書作成を弁護士に任せるメリット
遺言書を弁護士に依頼して作成することには、非常に多くのメリットがあります。
特に高齢者の方や、相続に関して不安を抱えている方にとっては、自分の意思を確実に伝え、残された家族がもめることのないようにするための、大変有効な手段となります。
ここでは、弁護士に遺言書を依頼することで得られる安心や利点を、わかりやすく丁寧にご説明いたします。
まず最大の利点は、「法律的に確実な遺言書が作成できる」という点です。
遺言書には、民法で細かく定められた作成方法や内容の要件があります。たとえば自筆証書遺言の場合、「全文を本人の手書きで書くこと」「日付や署名が必要であること」「押印が必要であること」など、守らなければならない形式が多く存在します。
仮に一部でもルールを誤っていれば、どれだけ思いを込めた内容でも、その遺言書は無効になる恐れがあります。
しかし弁護士に依頼すれば、これらの要件を確実に満たした遺言書を作ってくれるため、形式上の不備によるトラブルを未然に防ぐことができます。
次に、弁護士は「法律的な観点から内容のチェックや調整を行ってくれる」点でも大きな役割を果たします。
遺言書に記載された内容が、他の相続人の法定相続分や遺留分を著しく侵害していると、たとえ形式が正しくても、のちに相続人間で争いが起こる可能性があります。
たとえば「すべての財産を一人の子どもに相続させる」と記載した場合、他の相続人が不満を持ち、遺留分侵害額請求をすることもあります。
こうした事態を防ぐために、弁護士は依頼者の希望を尊重しつつ、現実的でトラブルの起きにくい内容に調整し、アドバイスしてくれるのです。
さらに、弁護士に依頼することで「本人の真意を的確に反映した内容に仕上がる」というメリットもあります。
遺言書には、単に財産の分け方だけでなく、「なぜそのように分けたのか」「どのような思いがあるのか」といった背景まで含めて書かれることが望ましいとされています。
しかし、そういった感情や希望を、文章としてうまく表現するのはなかなか難しいものです。
弁護士は、依頼者の話をじっくり丁寧に聞き取りながら、法律的な用語とともに、感情や希望もきちんと反映した文案を作成してくれるため、読み手にとっても理解しやすく、納得感のある遺言書になります。
また、弁護士は「遺言執行者としての業務も担える」という点で、相続発生後のサポートにもつながります。
遺言書に記載された内容がその通りに実現されるためには、遺言執行者という役割がとても重要です。
遺言執行者は、財産を分ける手続きや、銀行・役所への申請、遺産の名義変更など、多岐にわたる作業を担います。
弁護士が遺言執行者となれば、これらを法律に従って正確に、かつスムーズに実行してくれるため、相続人同士の不信感やトラブルの芽を事前に摘むことができるのです。
さらに、弁護士は第三者であり、家族の誰かに偏ることなく公平な立場から対応するため、相続人たちの信頼を得やすいという点でも安心です。
加えて、弁護士には「守秘義務」がありますので、遺言書の内容が他人に漏れることはなく、秘密がしっかりと守られます。
これは、遺言内容に家族内ではデリケートな事情や偏りがある場合に特に重要です。
将来起こるかもしれない軋轢を防ぐためにも、信頼できる弁護士に作成を依頼することで、安心して思いを託すことができます。
以上のように、遺言書を弁護士にお願いすることで、法律上のミスを避けられるだけでなく、内容面でも現実的で実行可能な遺言を残すことができ、家族の将来の安心につながります。
自分の意思を正しく形にし、残された家族に余計な心配をかけないためにも、弁護士のサポートを受けながら遺言書を作成することは、とても大きな意味を持つのです。